『神風連とその時代』(渡辺京二)

 今回は、渡辺京二さんという作者の『神風連とその時代』という本を読みました。

『神風連とその時代』(渡辺京二)

神風連の変について

 以前にも書きましたが、まずは、神風連の変について少し解説していきたいと思います。

 神風連の変は、明治9年10月24日夜に、熊本で起きた士族の反乱です。首領太田黒伴雄率いる約170名の武士が、熊本県令や鎮台司令官、それに砲兵営や歩兵営などを攻撃し、300名近くの死傷者を出しました。この戦いは、一夜で鎮圧され、太田黒を含め、28名が戦死、87名が自決、46名が捕らえられました。

林桜園

 神風連の人々を語る上で欠かせないのが、林桜園という思想家の存在です。林桜園は、寛政10年(1798年)に、百石どりの細川藩士の三男として生まれました。彼は肥後勤皇党領袖である宮部鼎蔵より22歳年長で、勤皇党のものたちからすれば、父の世代の人でした。ペリーが浦賀に入った嘉永6年には彼は56歳になっており、思想的にも確立したものをもっていました。

 その思想は、当時の幕末の志士たちがもっていた偏狭な国粋主義や恋闕の思いとは違い、彼の歌にも、慷慨の歌や恋闕の歌がありません。彼の師の師である本居宣長の影響を強く受けていますが、宣長とは違い、古来の神道を現世で興起させようという考えを持っていました。そして、人に相対すると強い感化を与えるカリスマ的人格の持ち主でした。彼は弟子たちに対して、無用の博識をいやしみ、知識をつねに皇道の自覚と統一することを求めた点で厳格な導師でしたが、その言動には凝滞することのない自由な精神の運動が感じられたといいます。

 彼は、「宇気比」(うけい)という呪術を大切にしていました。これは、神と誓約して夢告を得る方法だそうです。古事記のような日本の古典の中にこの「宇気比」の実例が出ており、それをもとに書いたのが、『宇気比考』という本です。彼は、「神事は本なり、人事は末なり」という言葉を残しており、物事を決めるときには、神意を問うことを第一にすることを自身も実践していました。

熊本敬神党

 幕末の肥後藩の政情では、学校党・実学党・勤皇党の3つが語られます。その中の勤皇党から分かれて出来たのが、敬神党です。敬神党は、林桜園の思想を受け継ぎ、神を敬うというところからその名が付けられました。その敬神党に世間の人々が付けた俗称が神風連です。

 神風連の首領は太田黒伴雄で、彼は、師の林桜園の思想を受け継いでいました。神風連の変の際にも、「宇気比」でその決起を決めました。この「宇気比」は秘儀であり、林桜園から太田黒伴雄へと直接伝えられたもので、他の人には知ることが出来ません。しかし、三島由紀夫の『奔馬』には、細かくこの「宇気比」の方法が書かれていて、どのようにそれを知ったのかは分からないのだそうです。

 神風連の変の前には、ややはなれて佐賀の乱があり、直後には秋月、萩の乱が接続しています。従来神風連の変はこの文脈において理解されてきました。しかし、この文脈におさまりきれない神風連の特異性は早くから気づかれていたそうです。

 その特異性とは何かというと、「宇気比」によって挙兵を決めたこともその一つですし、古来の鎧・刀などのみで戦ったことなどもそうです。

 また、決起に至った動機も他の反乱と違います。彼らは、維新以来、不平等条約という現実やあるいは新政府の洋化策に憤激を重ね、その都度挙兵を思い立ったのはたしかな事実でした。しかし、そのような政治的現実に対しては彼らはなお怒りを忍ぶことが出来ました。ところが、帯刀禁止という、政治的に見ればなんら争点としての現実的意味を帯びないような一点に至って、彼らはついに激発を抑えかねました。

 敬神党の特異さは、帯刀という風儀を日本が神州であることのシンボルと見なしていたことにあります。これを禁止するというのは、神州固有の風儀をその核心において否定することだと彼らには考えられたのです。この考え方は、神風連の副首領である加屋霽堅が書いた厖大な『廃刀奏議書』に最もよく表されています。

まとめ

 今回、この本の中で特に心に残った部分は、

 「神風連の精神が私たち現代人にとって、にわかに顕彰や賛美を許さぬものであるとすれば、私たちには彼らに対するどのような近づきかたが残されているのか。おそらく理解しようとつとめることだけが、私たちの唯一の方法なのである。」(p91)

 「愚直なものはただ亡びさるほかないのか……」(p264)

の2か所でした。

 神風連を理解することは難しいですが、愚直な彼らの行動をこれからも理解しようとつとめていきたいと思いました。

投稿者

masa

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